踊り子を追って湯ケ野へ
土産話という言葉が好きだ。
行ってない自分でもその光景を想像し、なんとなく行った気になれるし機会があれば自分もいってみようかしらというきっかけになったりするものである。
もっとも土産話に土産のお菓子はつきものだが、学生時代は長期休暇明けの土産と土産話が楽しみだった。
とはいえ、話している本人もなかなか楽しんでいるのではないだろうか。
大学時代の後輩は夏休みの京都旅行が余程楽しかったのか、同じ土産話を3度も私に話していた。
自慢話は嫌気がさすが、土産話は3度きいても嫌にならない。
話しをきいているとその人の旅の重点というものがわかる気がする。
観光がメインなのか、食べ物がメインなのか等同じ場所を旅行してもその人が何に重点を置いているのかで旅の景色は変わってくる。
私の重点と言えば、温泉と食べ物だと思う。
一人で旅行にいくときは温泉地を目的にしているし、あまり観光もしない。
チェックインぴったりに宿に入るのが大体だ。
たまに「楽しいんですかそれ」と聞かれることがあるが、本人はとても楽しんでいるから仕方がない。
新型コロナウイルスの影響で緊急事態宣言が発令されてから自粛自粛で家に1日を過ごすとどうしてもiPhoneの写真フォルダをあさり、昔いった場所を思い出してしまう。
そのなかで今回書きたいと思うのは
静岡県 湯ケ野温泉についてだ。
行ったのは去年の春で花粉がピークのときだった。(花粉症がない世界に行きたいなと思う)
社会人生活も落ち着いたところで、私は学生時代からの宿題としたある計画を実行しようとしていた。
一人旅だ。
学生時代からよく旅行には行ったが、一人で行くことがなかったので長年の憧れでもあった。
調べてみるとなかなかお一人様を受け入れてくれる旅館がない。
改めてこの国が一人に厳しいと痛感した。
しかし、後輩に「検索欄で一人を付け加えるとお一人様オッケーな旅館でてきますよ」と言われ検索してみたらそこそこでてきた。
結局は情報収集能力がない自分のせいだったようだ。
改めて言う話ではなのかもしれないが一人旅で宿を探すときは
検索で一人旅あるいは一人をつけると探しやすい
話は脱線したが、そのなかで静岡県の湯ケ野温泉に行くことに決定した。
理由はいくつかあるが、
まず、私はまあまあ人並み以上には本が好きだ。川端康成の『伊豆の踊子』は高校時代に読んでから何度か読んだが、その舞台となればぜひ行ってみたいと思うのが文学青年の性といものである。
宿が部屋食というのも、一人でゆっくり座敷で熱燗なんか呑みながら味わう料理も旅のだいご味ではなかろうか?
アクセスがよい。いまなら大体のとこはいけるが一人旅デビューということもあり、無理のない計画で行ける場所と考えた。
思い立ったが吉日、さっそく宿に電話をし予約を完了させてしまった。
あとは有給をとるだけだ。
予約して、半月程で旅行当日になった。
楽しいイベントというのは、始まる前の期待も含めてやはり楽しい。
朝は5:00に起床した。イベントの日は大体早起きになるのが小学生の頃からの習慣である。
9時頃小田原駅到着。
電車の時間までまだ2時間以上あるが、小田原駅で時間を潰すことにする。
特段蕎麦好きという訳でないが、吉田健一の『汽車旅の酒』を読んで以来、旅の朝の蕎麦は一種の儀式になっている。
ここからが、自分の旅のはじまりを意味する。
喫茶店で時間を潰し(旅の前のコーヒーは格別だ)、駅弁と酒を買い電車に乗り込む。
指定席にして正解だった、恐るべし踊り子号なかなかの人の多さ。
2時間もない、旅ではあるが電車のなかで呑む酒は何故こんなにうまいのか。
社会という束縛から解放されていく気がする。
当時ハマってた氷菓シリーズを読みながら揺られること1時間弱、、、
おっと、駅弁を忘れていた!あと30分足らずで目的地に着いてしまう…
駅弁を食べるタイミングって毎回難しいなと思う。鳥弁は駅弁の人気メニューだがやっぱ何度食べても上手い。
河津駅に到着すると、踊り子像がお出迎え。
さっそくバスに乗り、目的地を目指す。
今回の旅でみたかった河津七滝。
「かわずななだき」と読みがちだが、「かわずななだる」と読むらしい。
所々に踊り子像があり、文学の香りを感じる。
黄昏ていると、外人に声をかけられる「エクスキューズミー」
自慢ではないが、私は英語は全く喋れない。
どうも、写真をとって欲しいとの事。カメラの設定が万国共通でよかった。
さて、バスで宿を目指すのもいいが天気もいいし歩いてみることにしよう。
観光客もおらず、静かな道が続く。
伊豆の踊り子の作中でも、こんな道を歩いたのだろうかと想いを馳せながら、テクテクと歩いていく。
道に迷った。
方向音痴の治し方があれば、ぜひ知りたい。
旅先で道に1人迷うのはなかなか不安になってくる。
幸い親切な方に道を教えてもらって目的地にたどり着けた。
ネットで見るより趣きがある!
本日お世話になる
湯ヶ野温泉 福田屋さん
誰もいなかったので、呼び鈴を鳴らすとダンディな宿の方が出てきてくださり簡単な記入を済ませ早速部屋に案内してもらう。
予想してたより綺麗だし、the旅館という感じの部屋だ。
トイレ付というのも酒呑みにはありがたい。
荷物をおいて、お茶をすすり早速温泉へ。
写真はネットから引っ張ってきたものだが、お風呂が二箇所ありどちらもレトロ。
特に1枚目のかや風呂と言われるお風呂ははじめてみたのでテンションがあがる。
入ってみるとなんともいえない滑らかな湯加減である
温泉を堪能し、宿の周りを散策しボーッとしてると食事の時間である。
料理は魚メインで、煮魚は一人前!?と思う大きさである。
熱燗がすすむ、すすむ!
やはり魚と熱燗の組み合わせは最高だ。
夕食が済んで、もう一度温泉に入りボーッと景色を眺めて呑む酒がなんとも幸せな時間を導いてくれる。
『伊豆の踊り子』の主人公は学生であるが、孤独に悩み旅に出た。
社会人になって、孤独を感じる時間が増えたなと思う。
孤独というとマイナスのイメージがあるが、こうやってする孤独な旅もなかなか楽しいなと思う。
2日目
気づいたら朝になっていた。
旅行の日の朝は目覚ましもかけてないのに、早起きである。
朝風呂に入り、朝食の時間だ。
これまた、the旅館の朝食といった感じだ。
写真にはないが、ご飯は伊豆ワサビをたっぷり乗せた猫まんま。
2杯も食べてしまった。
普段は食べないのに、何故旅の朝ごはんはこんなにご飯が進むのか。
ご飯を食べてゴロゴロしてたらチェックアウトの時間が近づいてきた。
朝食のあとの時間はあっという間に過ぎてしまう。
帰りの車窓から見惚れてしまう海景色が。
一泊二日の旅もあっという間であったが、楽しい旅行だったとおもう。